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2013.03.06 Wednesday ... - / -
#錆びついた夢 Vol.01
 短編妄想作文

「錆びついた夢」 2009年


    1


「いよいよ明日だな。」
「ええ。長かったですね。」
「セキくん、プレゼンの準備は万端なんだろうな。」
「もちろんです。ここ数日、開発と営業の板ばさみで、僕がどれだけ嫌われ者になったと思ってるんですか。」
「君はここに入りたての頃から、何かと危なっかしいから心配だよ。ガハハハ!」
僕は、なんとか笑顔を作った。

室長は、長年の組織勤めで毒だけを腹の贅肉に蓄えたらしい。
長年会社に在籍しても、重役になれなかった者、つまり使い物にならなかった者。
彼らのプライドのために、会社はポストを探す。
しかし、そのポストは限られている。
限られているなら、作ればいい。
そうして出来たのが、この部署だった。
僕は、この組織に入社して5年目。異動になって、半年が経った。
ダメ上司には、優秀な社員がひとりは必要だ。
だから僕は選ばれた。
そう自分に言い聞かせることでしか、モチベーションを保ち続けられなかった。

けれど、この組織も、優秀な若い社員を押し潰すほどの愚行はしないだろう。
『イツマデモ、アナタハ、アグラヲカイテハイラレマセンヨ』
異動してから、どれだけ僕が室長の代わりに泥を被ってきたか。
このプロジェクトが成功すれば、僕は必ず認められる。
考えれば考えるほど、胸が高鳴ってなかなか寝付けなかった。

次の朝。
眠い目をこすりながら出勤し、デスクにつくと、総務部のアヤが「社内回覧です」と小さいメモを渡してきた。
『か〃ωは〃っτね★応援Uτるょ★』
アヤとは、周りに内緒で付き合っていて、3年になる。
このプロジェクトが上手く行ったら、結婚を申し込もうと考えている。
僕は気合を入れて、熱いコーヒーを一気に飲み干した。

午後1時。
社長をはじめ、重役がぞろぞろと集まる中、僕はプロジェクターの最終チェックに余念がなかった。
「セキなら、必ずやってくれますよ」
室長が小声で話しているのが聞こえた。
ほんとうに、白々しくて、鬱陶しい。

会議には、ざっと30人が集まっていた。
「お揃いのようなので始めます。」
いよいよ始まった。ファシリテーターを勤めるのは人事部の部長だ。
「本日の議題は、先月完成した赤い結晶体の有効利用についてです。まずは、新規宇宙征服推進室のチーフ、セキくん、プレゼンテーションをお願いします」
重役たちが期待の目で僕を見た。
この部署に来る前、総務部でも営業部でも、結果を残してきた僕を認めてくれている人物はたくさん居る。
いや、実際は口先だけかもしれないが、認められていると思わなければ、この場所では敵ばかりなのだ。
「それでは、始めさせていただきます。」

「はじめに、赤い結晶体について、みなさんに再周知いたたただだきたいと思います。」
噛んだ。少し緊張している。落ち着くんだ。
「この赤い結晶体は・・・開発部が苦心の末に作り上げた、画期的な物質です。私たちメトロン星人たちには無害ですが、特定の宇宙人には特殊な作用が働くことが分かっています。」
「ほう。特定の宇宙人、と言ったが、すべて把握出来てるのかね?」
突っ込んだのは、常務だった。
「・・・いえ。周知の通り、宇宙は広いです。すべてを把握しようとすることは現実的ではないと・・・」
「それが、君の部署の仕事であるはずだが」
意地悪をするのが仕事の人も、組織には必ずひとりはいるんだよな。
「常務、まずはセキくんの話を聞きましょう。質疑応答と議論はのちほど行いますので。」
僕は一瞬、「ごもっともです」と思ってしまい、血の気が引いたが、ナイスファシリテーションに救われた。
「では、続けます。赤い結晶は効果は一様です。まず意識がなくなり、理性・感情を失います。周りが敵に見え、凶暴化します。再び気を失わない限り、効果は持続する…ということで、間違いないですね?開発部長。」
「ええ。その通りです。」
「営業部外勤の協力で、さまざまな星で実験を行いました。もっとも効果が如実に表れたのが地球です。」
一気に場がざわついた。そうなのだ。我々組織、特に上層部が、一番固執していたのが地球の制圧だった。
「そうです。我々の組織の長年の夢に近づけたのです。しかも喜ばしいことに、地球人は加熱した結晶体の熱気を吸い込むだけで、凶暴化することが分かりました。こちらをご覧ください。」
僕はプロジェクターのスイッチを押した。

効果事例の舞台は、地球・日本地区のとある街。
工業地帯に隣接し、濁った川とスモッグが特徴的だった。
小さな商店街の一角にある魚屋にクローズアップ。
店先では、当組織の営業マンのひとりが魚屋のオヤジに変装し、七輪で秋刀魚を焼き始めた。
秋刀魚のはらわたには、試作段階の赤い結晶体がほんの少量詰め込んであった。
そこへ休憩中のタクシー運転手が喫茶店から出てきて、近づいてきた。
「もうそんな季節か。美味そうな秋刀魚だな」
運転手はひやかしだったのか、近づいてきてクンと匂いを嗅いだだけで、すぐにタクシーに乗り込んだ。
その直後。
タクシーは商店街内を暴走し、何人もの人間を轢いた。
ついに電柱に衝突し、気を失っているところを警察に連行されたが、暴走中の運転手の鬼のような表情を、営業マンが制止画撮影に成功していた。
そして翌日の、「凶悪運転手、何も憶えていないと供述」という見出しの新聞記事。
夜な夜な制作に勤しんだこの効果事例に、僕は手応えを感じていた。

「この効果事例に基づき、宇宙征服推進室から、具体的な地球制圧計画を提案いたします」
「それではここまでで何か、ご質問がある方はいますか?」
僕の企画書は完璧で、そして重役たちは地球に目がくらんでいる。反対意見はないはずだ。
「はい。」
!!!
「専務、どうぞ。」
「そもそも赤い結晶体って、言いにくくないですか?もっとカッコいいネーミングとかはないんですか?」
社長の息子である専務は、僕よりも年下だった。
いずれ組織を統括する人物になるにせよ、ひどいドラ息子で、学生気分が抜けていない。
あとで分かったことだが、専務の手元にはメモがあり、そこには「今日の目標:なんでもいいから3つくらいしつもんすること」と社長の字で書かれていた。
「この件は今、直接関係がないかもしれませんが・・・ネーミングは開発部の管轄ですね」
開発部長が、ため息を呑んだのが分かった。
「正式名称となると専門的に少し伝わり難いので、改善したつもりなのですが、そのような意見が多ければ、持ち帰って検討します。」
「そうでしたか。僕もカッコイイの何か思いついたら教えますよ。」
面倒くさくなったんだな。
息子の成長に微笑みながら頷く社長を、その場の全員が確認して、その話は終わった。

さあ、これから。
これからが勝負だ。


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JUGEMテーマ:小説/詩
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